こんにちは、まる3です。
一応、三部作の最後として、DX時代の地域の図書館の魅力づくりを考えています。
図書館資料がデジタル化され、全国どこからでもアクセスできるようになるとしたら、極論をいえば「国立国会図書館をオンラインで利用できれば事足りるのでは?」とか、最後は「すべてが国会図書館になる。じゃん、じゃん!」でいいんじゃないか…という意見さえあったりする。
そこで、むしろDX時代だからこそ地域の図書館が魅力的であれ!みたいなことを、その地域ならではの「地域資料」から、考えてみたいと思いました。
図書館における地域資料
地域の図書館には、市販されている図書のほかにも、その地域独自の資料を収集しています。いわゆる地域資料と呼ばれるもので、書籍流通に必要なISBNコードがついていないものや市販されていないものなどもありますが、基本的には
- 紙に文字や写真が印刷され
- 複数ページ(ページ数にはこだわらない)
- 中綴じ、無線綴じなど製本されている
- 書籍の場合は書名や著者名、出版社や印刷所などがわかり場合もあります…が、
- パンフレットや小冊子のようなものでは書名も著者名もないものもあります。
- ちらし、ポスターなどの1枚ものを地域資料として収集していることはまれ。
さらにいえば
- 書名や著者名があっても
- 目次が無い
- 奥付がない
- 索引がない
など、資料としての価値はあるものの、図書館員が自ら目録情報を作っていかなければなりません。
そこまでやったとしても、検索対象はあくまでも[本]なのですね。内容細目や件名をつけたとしても、探せる対象は[資料]単位なのです。
地域資料と地域資源
地域資料とよく似た言葉に地域資源があります。図書館用語というよりも昨今ではまちづくりや地域活性化、あるいは観光などの文脈で使われることがほとんどです。
地域資源…地域にある有形・無形のリソースです。また地域資源のうち“文”(言語・文字)で表現された「文化資源」がありますが、まだ“文”化されていない資源も実はたくさんあったりします。そして“文”化された資源は、必ず何かに記録されている…はずです。
ただ、名前のない状態だったり記録されていないものを図書館が扱うことはほとんどありません。それは地域の資料館や博物館に持って行くことになります。博物館に持ち込まれてはじめて名前が付与され、解説文がついて…そこでは博物館資料として扱われます。
また寺院や神社、史跡など、その場所から動かせないものも地域資源としては存在しています。写真を撮るなりして媒体に記録されることで、資料として扱いことができるようになるものも少なくはありません。
地域資源と地域コンテンツ
地域資源から派生する言葉として地域コンテンツがあります。コンテンツは中身という意味ではあるのですが、最近では映像コンテンツのような使い方をするように、中身のある内容のような扱われ方をします。
地域コンテンツは、むしろ地域物語といっても良いかもしれないのですが、物語というとどうしても大袈裟になってしまいます。なのでショートストーリーやエピソードといった意味合いでとらえてもよいのかもしれません。
そして地域資源と地域コンテンツの関係は、こんな感じになります。
ひとつの地域資源から複数の地域コンテンツが生まれる
ひとつの地域資源として、とある[神社]を想定します。その神社にまつわるいろいろな物語(コンテンツ)が生まれます。神社に祀られている神様の物語、その神社を建立する際の地域の人たちの物語、神社での行われるさまざまな行事、そして、もしかしたら、その神社でデートした人にとっても特別の物語があったりします。
地域資源はひとつでも、そこから生まれる地域コンテンツは無数にあります。そうした一つひとつを地域の図書館が地域コンテンツとして捉えることができるかどうか。
前にも書いたように、背表紙のついた本のカタチにならないと、図書館はなかなか地域資料として受け入れてくれることはありません。
複数の地域資源からひとつの地域コンテンツが生まれる
ひとつの地域資源からたくさんのコンテンツが生まれるのとは反対に、複数の地域資源からひとつの地域コンテンツが生まれることもあります。
例えば、神社めぐりのようなコンテンツは、複数の[神社]という地域資源をめぐることでひとつのコンテンツをつくったりします。観光ガイドのようなものも、地域にあるたくさんの観光資源=地域資源を取り上げながら、ひとつのガイドマップやガイドブックをつくります。このように地域資源をコンテンツの素材にしながら、ひとつの地域コンテンツを作り上げる。そしてそれはたぶん、なんらかの印刷物になったり、パンフレットになることで、地域の図書館が地域資料として受け入れることはできると思います。
ひとつの地域コンテンツから複数の地域コンテンツが生まれる
ひとつの地域コンテンツから生まれる複数の地域コンテンツ。例えば、とある地域で何らかの物語が生まれたとします。わかりやすいことでいえば映画やドラマなどのコンテンツのロケ地になる。これによってひとつの地域生まれのコンテンツから、ロケ地めぐりマップが生まれたり、作品に便乗したイベントや商品などが生まれたりします。
ひとつのコンテンツを大切にすることで、そこコンテンツから派生する数多くのコンテンツが生まれます。これもひとつの大きなポイントになりますね。
複数の地域コンテンツからひとつの地域コンテンツが生まれる
そして複数の地域コンテンツから複数の地域コンテンツが生まれる。このような状態になれば、地域コンテンツの再生産に拍車がかかり、次から次へと新しいコンテンツが生まれる土壌ができると思います。
こんな言い方はどうでしょうか? 豊かなコンテンツを持つ地域づくり(コンテンツ・リッチ)な土地は、やはり地域が元気だったり、地域が魅力的だったりして、人も集まるし、笑顔で来訪者をむかえるこができる土地になったりもします。
地域資源の種類…もしかしてこれは!
地域資源の種類には、実にさまざまなものがありますが、分類していくといくつかに絞り込めるように思います。
僕はかつて地域のイベント情報を集めてカレンダー形式で見れるようにするサイトを作ったことがあるのですが、そのときにも要素はいくつかに絞り込める多様に思います。
例えば、ニュース記事などに使われる 5W1H もそんな地域資源の種類を考える上でポイントになったりします。
- いつ:When
- どこで:Where
- 誰が:Who
- 何を:What
- なぜ:Why
- どのように:How
時間(年月日、日時)といったものも、ちょっと難しいですが、ひとつの地域資源と捉えることができると思います。それぞれの年、それぞれの月、それぞれの日。また朝・昼・夜といった時間帯なども地域の資源なのです。
場所は、れっきとした地域資源になります。行政単位の区域や地区などの範囲や緯度経度で表現できるポイント。加えて、建物や施設も地域資源となります。
誰が…という地域資源には、1)人物と 2)団体があります。人物はそのまま個人ですが、団体には地方自治体(団体としてとらえる)から、企業や各種団体、少人数のグループに至るまで複数の人の集まりに名称がついたものであれば、地域資源としてとらえることができると思います。そしてここには、人物と所属する団体の関連をつくることができるのも特徴的だと思っています。
何を…というモノやコトにおいても、なんらかの名称づけ(ラベリング)によって地域資源となります。古民具なども対象になるし、行事だけでなく風習や地域に特徴的な所作にいたるまで。オブジェクトといってしまうと物品のイメージですが、加えてイベントというのもあると思います。
なぜWhyは地域資源にはならないかな。
どのようにHowは、手順やワークフロー、行事を行うための順番などをイメージすると地域資源になり得ると思っています。
ここで少しまとめてみます。
地域資源の種類には
- 時間:
- 場所:
- 人物:
- 団体:
- 物品:
- 出来事:
- 手順やノウハウ:
カタチのあるもの、カタチのないものも含めて、地域の資源ととらえ、その地域資源からいくつもの地域コンテンツが生まれる。その地域コンテンツのうち、背表紙がついて本の体裁をもったものが図書館で地域資料として扱われます。
そこで大事なことは、図書館はその地域資料から「地域コンテンツ」を抜き出し、さらに地域コンテンツを構成している「地域資源」を抜き出し、地域資源と地域資源の関係性を記述することでそこにセマンティック(意味のある)な情報と情報のつながりをつくっていくことが、実はこの先のDX時代の図書館において人(職員)が取り組むべき重要な仕事になるのではないかなぁ〜と思っていたりもします。
地域資料•地域資源の掘り起こし
画像では「地域資料の掘り起こし」と書いているけど、「地域資源の掘り起こし」です。前にも書きましたが、地域資料は地域における歴史や文化、人々の営みなどが記述され[本]としてできてるモノです。書名や著者名、出版社名などがあっても無くてもよいのですが、冊子になっていることが最低限の条件だったりします。チラシやポスターなどの1枚ものも、結局は1枚ものの本として捉えて登録していたりします。
それに対して地域資源は、まだ地域資料になっていないもの…も、含めています。なので、そうしてものはどこからか情報を得て「資料化」する必要があったりしますが…まずはどんな地域資源があるのかを、既存の文献や地域資料から、上記の種類(時間、場所、人物、団体、物品、出来事、手順やノウハウなど)をピックアップしていく作業が必要となりますし、それも含めてこんな取り組みが必要になろうかと思います。
- 文献や地域資料から掘り起こし
- 地図から掘り起こす(古い地図から現在の地図、電子的な地図)
- 人づて、口伝、伝承、オーラルヒストリー
- 実際に、地域を歩きながら掘り起こして行く
また、昨今ではホームページやブログ、SNS上に地域資源の写真や記述をアップしている人たちもいるので、そうした情報源から地域資源を掘り起こしていく必要があります。
こうした取り組みの現在形として、
- WikipediaTown → Wikipediaに記述し保存されるコンテンツ
- マッピングパーティー → Open Street Mapに描画し保存されるコンテンツ
- 歴史ツーリズムや歴史フットパスなどのコース作り
など、地域資源を掘り起こして画像や文章にデータ化し、それぞれのプラットホームに保存する。そんな活動が、今後は地域の図書館や公民館などでの活動として取り組まれることを期待していたりします。
地域資源のストレージ
そうして掘り起こした地域資源は、なんらかの形で保存していかなければならないのですが、ここで「紙」資料にこだわる必要はありません。デジタルカメラで撮影した画像やワープロで打ち込んだ文章をわざわざ紙に印刷して地域資料にしなければ図書館が扱えない…というのも、ちょっと情けなさを感じたりします。そこで必要なのが、こうした地域資源に関する情報=データをどのように保存するかが、ポイントになります。
いわゆるハードディスクやクラウドディスクなどを[ストレージ]保管庫と呼んでいます。ここでは地域資源のストレージを、これからの図書館がどうやって持つことができるのか…を少しだけ考えてみたいと思います。
地域資源のデジタルアーカイブ
ということで、地域資源のデジタルアーカイブが必要な時代になってきました。地域資料という文献のデジタル化も必要ですが、もう一方で地域にあるさまざまな資源=リソースのデジタルアーカイブ化が必要となってきます。そこには歴史の記述もあれば、風景の移り変わりなどもあろうかと思います。
そうしたデジタルアーカイブには、なんらかのシステムが必要になるのですが…これが、かなり難問だったりします。デジタル化によって後世に伝え残していくことが重要ではあるのですが、残念ながら2000年代に作られた多くのデジタルアーカイブと称するサイトが20年もたつと、ほとんど消失していたりもします。技術的な問題もありますが、運営する団体の持続性や開発者が個人だった場合の持続性など、実はさまざまな課題を抱えているのです。
デジタル化はした。ハードディスクに入っているしCD-RやDVDにも保存した。…けど、それは今どこにあるのかわからない…という状況になっているところも少なくはありません。
地域資源のデジタルアーカイブは、そのシステムづくりがポイントです。デジタル化はもうスマホでもできるのです。
- デジタルアーカイブとしての最低限の機能を有している
- オープンソースであり開発やメンテナンスが複数の人あるいはグループで行われている
- できるだけたくさんの人が使っているシステム
- 特定の企業が開発したとしても、そのシステムを継承する企業や団体がある
- ウェブの進歩によってシステムそのものも進歩することができる
などなど、課題はたくさんあります。
が、それでもなおそうした課題に取り組みながらも、地域資源をデジタル化して保存し、利活用できる状態にすることは、とても大事なことだったりします。
地域資源を検索可能にすることで他施設との親和性が高まる
現在の図書館の検索が、書名、著者名、出版社名、件名…というあたりで止まっているので、地域や他の施設との親和性がとても少ないと思っています。
ここでいう親和性とは、図書館で検索した結果が、図書館の蔵書に限らず地域の他の施設…特に、博物館や資料館、観光施設などもその検索結果として表示される…そんなイメージを持っています。
例えば、地域の◯◯神社の歴史を調べたい…のようなことを図書館で検索すると、◯◯神社に関する文献も出てくるけれど、その神社の社務所に行くとさらに詳しい記述があるよ、その神社の看板にはこんな文章があるよ、その神社の宮司さんの●●さんに聞いてください。
といった、地域資源に関する知りたいことに応える図書館ができると思うのです。
地域資料のタイトルにその用語が含まれているとは限りませんが、索引語の中にあるいは目次の見出文の中に含まれていることもあります。また、地域資料には最初から索引がない資料もたくさんあります。そうしたことをひとつひとつ拾い上げて行く作業もこれからの図書館員には求められますが、そうした作業を経ることで、図書館は本しか探せない場所から地域の知りたいことに応えてくれる場所になっていくと思うのです。
- 地域資料の目次や索引も検索できる
- 地域資料に見出しをつくる作業
- 地域資料に索引をつくる作業
- それらを検索可能にする作業
それらを経て、他の地域資源との親和性が高まる図書館づくりが、DX時代の図書館の役割のひとつになっていくよう思うのです。
地域資源をプログラミングから利用できる時代へ
地域資源のストレージに、地域資源のデジタルアーカイブを構築し、デジタル化された地域資源や地域コンテンツを保存し、利活用できる状態にする。これがDX時代における図書館の役割の大きなポイントになって行く可能性があります。
さらに、そのストレージには、Excelのような表形式のデータもあれば、SQLで問い合わせして取り出せるデータベースの形式も必要でしょう。またそこから、次の図書館の目録規則でもあるRDAによる意味を持たせた保存方法(セマンティックな状態)での保存が必要になって行くと思っています。
- RDF turtle形式
- JSON-LD形式
- GraphQLやCypher形式
など、
[主語]-(述語) – [目的語]
のようなトリプルの関係性を、それぞれの地域資源の関係性に基づいて作成していくことが、次の次の図書館スタッフに求められるスキルになるかもしれません。
こうしたデータが蓄積されることで、図書館における地域資源のデータベースが、人が問い合わせるだけではなく、プログラミング言語からも利用ができるようになり、ひいてはAI(人工知能)が図書館の利用者になることも可能になっていくかもしれません。AIに関しては実用的なのは機械学習やディープラーニングといった特化型AIですが、特化型においても情報の関係性で検索し、その検索結果からなんらかの傾向を見つけ出すようなAIが登場する可能性もあったりします。
そして、図書館において地域資料/地域資源も含めた図書館資料をプログラミング言語から利用できるAPIを持たせることをイメージしていたりします。大学生が研究論文の書く際の資料収集をプログラミング化できるようにしたいと思っていますし、企業においても商品開発のための調査研究なども図書館に電話やメールで問い合わせるのではなく、プログラミング言語から問い合わせて必要な情報を得ることができる時代をイメージしています。
図書館サービスが、人と人との対面によるサービスから、電話やFAXでも対応できる時代を経て、時代のニーズに応じ電子メールやチャットでの図書館サービスを受けることができる時代を作らなければなりません。これらのサービスは図書館におけるオンラインサービスの一環として今後ますます増えて行くように思います。そこで起こるのは図書館に行かなくても図書館サービスを受けることができる時代であり、そんな時代においては職員においても図書館に出勤しなくても在宅あるいはリモートワークで図書館サービスを提供できるような時代が到来するとイメージしています。図書館員の働き方改革のひとつです。また、オンラインスタッフは自分のスキルを活かして居住している地元の図書館だけでなく、全国の図書館に就職できる可能性もあります。
図書館サービスをオンラインで提供できる時代は、図書館員のスキルもより価値を認めてくれる(ひらたくいえば高給で採用してくれる)図書館で発揮することが可能になる…そんなイメージを持っていたりします。
あわせて読みたい
関連リンク
平日は山中湖村の森の中にある図書館 山中湖情報創造館に、週末は清里高原の廃校になった小学校を活用したコワーキングスペースもある 八ヶ岳コモンズにいます。「わたしをかなえる居場所づくり」をイメージしながら、テレワークに加えて動画撮影やネット副業などにもチャレンジできる図書館/コワーキングスペースづくりに取り組んでいます。
コメント