山中湖情報創造館2.0
2004年平成16年4月に開館した山中湖情報創造館。
日本で最初の指定管理者図書館としてオープンして、5回の協定期間をへて現在は18年目になります。今期の協定期間は2024年3月末までなので、あと2年の協定期間です。そして2024年4月以降は開館20周年を迎えることになります。
山中湖情報創造館は、図書館法に基づく機能を有する施設と設置管理条例にはあります。本来ならば「情報創造館」に図書館機能が付加された施設ですが、基本的には地域の公共図書館として役割を担ってきました。
2004年の時点では、パソコンもインターネットもありました。山中湖情報創造館は開館時から利用者へのWi-Fiによるインターネット接続を可能とし、マルチメディアコーナーにはインターネットに接続しているパソコンを複数台設置し、図書館としての役割に加えて持ち込みのパソコンや備え付けのパソコンによるインターネット利用を可能としてきました。
iPhoneが登場する4年前のことです。
その後、2008年に日本でiPhoneが発売され、2010年にiPadが発売されました。パソコンの前に座ってのインターネット利用が、屋外で歩きながらの利用が可能となりました。
そして今日、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、図書館は臨時閉館したり、時間短縮したりしていますが、むしろオンラインによる図書館サービスが求められている時代になりました。
蔵書の検索はウェブからもできますし、ウェブ利用の登録もしていただければオンラインによる予約もできるようになっています。それでもやはり「図書館に行かないと本を借りることはできない」状況にかわりはありません。
このあたりのことも含めて、「オンラインで利用できる山中湖情報創造館」をめざすこと。そもそも図書館のオンラインサービスとは何か?ということや「図書館に行くことで得られるサービス」も含めて考えなければならないと思っています。
山中湖情報創造館2.0(2024年)に向けて、いろいろと考えていきたいと思います。
とある図書館員の一日
図書館をデザインし直す 「図書館」(仮称)リ・デザイン会議に、一参加者として都合がつく範囲で参加していると、本当にいままでの図書館サービス、現在の図書館サービス、これから先の図書館サービスを考えるよい機会になっています。
そんななかで、ふと…こんなことを考えてみてはどうかなぁ〜と思ったりしています。それは「とある図書館員の一日」を20年ごとに書き出してみる…ということです。
- 1970年 とある図書館員の一日
- 1990年 とある図書館員の一日
- 2010年 とある図書館員の一日
- 2030年 とある図書館員の一日
- 2050年 とある図書館員の一日
一日でなくても、モーニングルーチンとか、クロージングルーチンでもいいかもしれないし、あるいは一日から一週間とか一ヶ月みたいなのでもいいかもしれない。
1970年の図書館員さんは、まだ電子メールのチェックは無かったかな。1990年にはパソコン通信はあったけどまだインターネットの商用利用が始まる前だから1990年も電子メールのチェックは無かったと思います。
インターネットが日本国内で商用利用が始まったのが1993年。はじまった当時はパソコン通信やアマチュア無線みたいな「ホビーの世界」という認識も少なくなく、パソコン業界の中でもインターネットはそれほど流行らない…という意見も耳にしました。日本においては1995年の阪神淡路大震災を契機に、それまでパソコン通信で同じサービス(プロバイダー)のユーザー間でしかできなかった電子メールのやりとりが、インターネットを介して相互にできるようになった…あたりから、電子メールのチェックが業務としても入ってきのかなぁ〜と思います。
2010年には、それぞれの図書館はウェブサイト(ホームページ)をもち、利用案内などを閲覧することができるようになっていたと思います。また図書館に足を運ばなくてもウェブ上から蔵書の検索ができる…ということもありました。単独での蔵書検索から複数の図書館を対象にした横断検索は早い時期からできたところもあったようです。それにより図書館間での他館の蔵書検索とそれによる相互貸借(ILL)もインターネット前よりも頻繁に行えるようになりましたね。
さて、現在は2022年。2010年と2030年の中間地点ですが、2010年から今日までの変化と、今日から2030年までの変化を予測してみると、これまでの10年の変化よりもこれから先の10年の変化が大きくなるように思います。
AI(人工知能)、XR(VR、AR、MR)からメタバース、ブロックチェーンやNFTなどの技術がいよいよ実用的になってきています。どこかの議員さんは、いずれ図書館員はAIに置き換えられる…という過激な発言もあったようですが、むしろ図書館員はAIを上手に使いながら利用者が求める情報をより短時間で探し提供できるようになる…と捉えた方が現実的だろうなぁ〜と思ったりもします。
さらに2030年から2050年の20年の変化は、どうでしょうか。
考えるだけでも、ワクワクしてきますが、宇宙開発やジオエンジニアリングなど大きなテクノロジーの進歩がある一方で、私たちひとりひとりの生活をイメージすると…。おそらく今以上に個人の情報は管理される社会が到来すると思っています。現在のマイナンバー(マイナンバーカード=いずれマイナンバーアプリになると思ってます)で、図書館の本の貸し出しができるようになる…というレベルではなく、その人の戸籍から就学履歴/単位取得、病歴やお薬手帳、各種免許や資格などもすべて紐づけられる時代になる中で図書館の本も「マイナ貸出」になりそうな気がします。
図書館サービスも来館はイベントがあるときだけで、利用のほとんどはオンラインかな。電子書籍というよりも、書籍単位ではなく、もっと情報や知識や物語単位での資料提供/情報提供がされるように思います。
ま、そうした未来において、確かに「図書館」という名称は、「下駄箱」や「筆入」みたいな言葉と同じように、もう下駄も筆も入れていないけれど、名前だけが残る…そんなふうになるかもしれません。
図書館のフレームワーク
先日の、「図書館」(仮称)リ・デザイン会議の中で「フレームワーク」と書かれた付箋が目にとまりました。この言葉は他のキーワードのように括られるものではなく、むしろ全体を括る言葉なのかもしれないなぁ〜と、オンラインミーティングが終わってから思いました。
私たちは、2030年の「図書館」(仮称)から2050年の「図書館」(仮称)をイメージする作業を行うなかで、作り出すべきものは
「図書館」(仮称)のフレームワーク
なのではないかなぁ、と思うのです。この場合のフレームワークは「枠組み」と訳してもよいですが、イメージとしてはウェブアプリケーションを作るときのフレームワーク。Rubyなら Ruby on RailsやLaravel、PythonならDjangoやFlaskといったもの。簡単にいえば「●●をつくるために必要な要素を雛形としてまとめておきました」的なものがフレームワーク。比較的似た言葉としては、スキーム、サービスフロー…などもありますが、どちらかといえばサービス全体の流れや個々のサービスの手順だったりします。またビジネスモデルというのもありますが、ビジネスモデルはフレームワークよりも大きく、利害関係者=ステークホルダーを含めた関係性になってしまいます。
具体的に「図書館」(仮称)を構築する際には、その「フレームワーク」をつくり、それぞれの地域の規模やニーズによってフレームワークから実装へと作り込んでいく…そんな感じになるかな。
そして、これまでの「図書館」をいちどフレームワーク化し、さらに「博物館のフレームワーク」「文書館(アーカイブ)のフレームワーク」「公民館のフレームワーク」なども取り込みながら、「図書館」(仮称)のフレームワークをつくってみる。さらにその際には、ラーニングコモンズやコワーキングスペースなどもフレームワーク化し、加えたり外したりしながら、地域にあわせた「図書館」(仮称)が生み出せるようにする…なんていうのも、ひとつの方向性かもしれません。
図書館のコア・コンピタンス
いろいろと時代が変化するなかで、図書館のサービスも少しずつ変わってきているのですが、それでも変わらない図書館のコア・コンピタンス(「競合他社を圧倒的に上まわるレベルの能力」 「競合他社に真似できない核となる能力」)※言葉遣いがちょっと大袈裟かも。を考えると、そこにみえてくるひとつのこたえが
地域のパブリック・ストレージ
という言葉が浮かんできました。市販されている本を買って蔵書にすること、行政の発行物や地域資料を収集して蔵書にすること、さまざまな地域の文化的資料を集めて提供すること…等々を考えると、地域の文化的公共保存庫であり、そこで保存されている本(情報・知識・物語)をどのように求める利用者に提供するかの仕組みとして資料組織化があり、排架があり、OPACやレファレンスサービスがある…そんな感じがしています。
そして「パブリック・ストレージ」の上に、空間として読書する場所、勉強や仕事をする場所、誰かと出会う場所、イベントを開催し参加する場所、憩う場所(リラックス)、楽しむ場所(レクリエーション)などの「空間」としての建物がある。2022年現在においては新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、そうした「場としての図書館」利用に大きな制限がかかっていたりしますが、それでも図書館は、まずは資料を集めて保管する場所であり、その上で空間を市民の方々に提供する施設でありつづけるのではないかなぁ〜と、思うのです。
上の図ではコア・コンピタンスの下に、少しばかり資料組織について考えていることを書いていたりします。
これまでの図書館は[本]という製本されている紙の束や、DVDやCDなどの、いわゆるパッケージ化されている物体を資料として組織化してきました。これはいわば、インターネットの初期のころのYahoo!が、ウェブサイトというひとかたまりを分類整理してポータルサイトとして提供していたころと似ているように思います。インターネット上ではすでにそうしたサイト単位の分類は終了し、Googleなどによりページ単位の検索が主流となりました。そういう意味では図書館はまたYahoo!のサイト単位の分類レベルで止まっている状態です。まだGoogleなどのようなページ単位での検索ができる状態にはなっていません。著作権法上で検索のためのデジタル化は権利者の許諾を得なくてもできる時代がくるということですが、かりに全文検索できたとしたら、その検索結果はどんなものがでてくるのか…な?と思っています。
むしろ、必要なのは[目次]や[索引]や[グロッサリー:用語集]単位での検索だったり、情報・知識・物語を対象とした検索だったりするではないかと思っています。
ここで興味深いのは、次世代の図書館目録として注目されている目録規則「RDA」(Resource Description and Access)ですね。特にトリプルと呼ばれるもの
[主語]-(述語)-[目的語]
それぞれの要素をノードとして、関係性を記述する様式。こうした新しい目録規則は、新しいニーズに応える目的で作られています。PDAのトリプルは RDA turtleとして記述され、それ以外にもLOD(リンクドオープンデータ)やグラフデータベースなど、これまでの表形式によるデータベースに縛れれない、新しいデータベースを構築できる基盤が整いつつあったりします。
多様な利用者、多様な利用形態
今後、図書館がDX時代に対応していくなかで、来館することなくオンラインで利用できるようになると、現在私たちがイメージしている以上に、多種多様な利用者さんに使っていただき、さらに多種多様な利用形態になっていくのではないかなぁ〜と思っています。
いわゆるバリアフリーやノーマライゼーション、インクルーシブ社会は言うに及ばす、LGBTQ+といったセクシャリティもだし、生まれた環境も育った環境も実はひとりひとり異なっていたりするので、いまでさえほんとうは多種多様な方々にご利用いただいているのです。
食べ物においては、関東ではおでんの中に「ちくわぶ」を入れるのはありですが、関西にいくと「ちくわぶ」そのものを知らなかったり、あればもう別の食べ物…というのを聞いたことがあります。カップ麺なども関東と関西ではダシが違っていたり…。実はそのくらい利用者の多様性を考えてのサービスには至っていないのが図書館です。せいぜいその土地でしか入手できない出版物が入っている程度。
- 時間的多様性:24時間365日のオンライン利用
- 空間的多様性:地元だけじゃなく全国から世界中からのオンライン利用
- 目的的多様性:調査研究目的以外の、受験、資格取得、ビジネスなど様々な目的
私たちは今後10年、20年、30年と時間を経るなかで、実に多種多様な利用形態と多種多様な利用者の方々への心遣い…配慮が図書館利用ひとつとっても求められると思うのです。
スタッフのスキルと働き方
多種多様な利用に応えるために、図書館スタッフも従来の図書館情報学で学習する以上のスキルが求められると考えています。利用者との対応となると基本的には接客・接遇という範囲ではあるのですが、来館による「対面」、オンラインによる「リアルタイム」、オンラインによる「非同期」など、様々な対応が求められる一方で、利用者からすれば「なにも生身の人間に対応してもらわなくてもいい」と思うこともあるかもしれませんし、むしろ積極的に「生身の人間には聞きずらい」ということも出てくるかもしれません。
そのようなときにむけた、新しいスタッフ像が必要となるかもしれません。
- アバタースタッフ:オンラインでアバターとして対応するスタッフ(バックは生身かも)
- AIスタッフ:キズナアイみたいなスタッフ(キャラクタは男性でも女性でも中性でも)
- ロボットスタッフ:硬めのロボット、ソフトなロボットなど(来館者対応かな)
そんなスタッフ側の多様性もあろうかと思っています。さらに、アバタースタッフやオンラインサービス対応スタッフにおいては、働き方改革の一環としてテレワーク/リモートワークによる勤務体制もあるかと思います。東京の図書館のオンラインサービススタッフは北海道に居住しているとか、新潟に住みながら沖縄の図書館のアバタースタッフやっています…とか。複数の図書館とオンラインレファレンスサービスの仕事をしていますとか。生身の人間であっても図書館のオンラインサービスによって働き方が変わってくる可能性があります。
円グラフにも書いたように、来館利用の割合が徐々に減るとともに、オンライン利用が増えていく。オンラインサービスが全国・全世界から利用されるようになると、実は建物としての図書館のキャパシティを超えて、利用者拡大を目指すことも不可能ではなくなったりします。
図書館スタッフの社会的地位の向上、待遇等の改善/向上も、こうした時間や場所に制限されない働き方ができる時代に向けて、大きく改善されている可能性を持っていたりすると思うのです。
図書館問い合わせ言語 Library Query Language
あと10年もしないうちに、図書館からうけるサービスは自動/半自動化できるのではないかと思っているのです。ひとつひとつウェブサイトの検索窓にキーワードを入力して、検索結果が表示されて、その中から目視でスクロールしながら目的の本を探す…って、どう考えてもスマートではないです。Googleのアラートで、気になるキーワードを登録しておけば自動的に検索結果が得られるように、図書館サービスもまた半自動になり、全自動になっていくと考えています。そのためにはこれが必要なのです。
図書館問い合わせ言語 Library Query Language
図書館サービスをプログラムの中から利用できるようにする問い合わせ言語。検索語を指定したり、検索結果からさらに絞り込んだり、異なる検索語で抽出した結果から同じ本を取り出したり。特定の本が決まったら、予約をしたり、配送を依頼したり。単独館のサービスだけでなく、複数の図書館も指定したり…などなど。
図書館サービスをプログラミング化することで、人の利用だけでなく、機械からの利用もできるようになりそうです。AIが複数の図書館に問い合わせし、その結果を得て次の処理をする…など。
大学生にとっては、論文の作成にあたり、参考文献/参考資料の収集も、こうした図書館問い合わせ言語でプログラミングすることで、「読者の時間を節約する」ことになったりします。
また、図書館だけでなく博物館や文書館、資料館、美術館、水族館や動物園、植物園、科学館などなどいろいろな社会教育施設に対しても、同様の問い合わせ言語が作られれば、世の中はかなり…相当便利になっていくと思いますし、そこから「知の再生産」は加速度的に進むと思っています。
- Library-QL(図書館問い合わせ言語)
- MLAK-QL(博物館・図書館・アーカイブ・公民館問い合わせ言語)
- GLAM-QL(ギャラリー・ライブラリー・アーカイブ・ミュージアム問い合わせ言語)
- MALUI-QL(博物館、アーカイブ、ライブラリ、大学、産業問い合わせ言語)
みたいな感じ。
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